神戸は、つくづく不思議な街だと思います。
外国人居留地や、南京町があり。ハイカラ文化と言われますが
案外山沿いには、神社やお寺が多いです。
神様の方は、町には見えない境界線が引かれていて
氏神様が決まっています。
うちの場合は、すぐそこの神社ではなく
バスに乗って2つ目の神社が、氏神様でした。
そして。物心がついた頃から恐れていたのが
『おーおーのおっちゃん』です。
托鉢でした。 笑)
おっちゃんの正体は、黒い和装束。
すげ笠を被り、わらじを履いた『お坊さん』でした。
一軒一軒の玄関口に立ち
「おーー。おおーっ。」
と1分か2分、大声で叫んで、順番に隣の家へと移動していきます。
ドレミの音階のドの音を「おー。」に変えて
お腹の底から、息が苦しくなるまで、一定音で
「おーーーー。おーーーー。おーーーーーー。」
広いバス道の歩道を一列で
6、7人で歩いてきて、小さな通りに入るとそれぞれ分散して。
おーおーの合唱が、あちらでもこちらでも、あがります。
長屋の通りは、「おーおー」一色です。
子どもは、親から1度は
「あー。おーおーのおっちゃんが、こっちへ来ているよ。
悪い子は、連れて帰ってもらおうか! 」
と、言われるので
「やめて~!」と
わんわん泣いたこともあります。
なので、遠くから「おーおー」と、声が聞こえ始めると
家の奥でじっと隠れていました。
いつ来るのか? まったくわかりませんでした。笑)
私も小学校高学年になり
平穏に過ごしていた。夏休み。
暑い日のお昼ごろにセミの大合唱のなか。
「おーおー。」と、やってきました。
母は台所に立っていて
「今。手が離せないから。栞! おっちゃんに、これ渡して来て!」
と、100円渡されました。
「えええ~。私が。」
「早く。帰ってしまう! 渡すだけでいいから! 早くして!」
「わわわ。わかった。わかったけど…。」
もう。7軒先まで、向こうにいっている。お坊さんを
めがけて走りました。
小銭を渡すと、すげ笠の中の顔が、見えました!!
「ありがとう。お嬢ちゃんのおうちには、もう行ったかな? おうちどこ?」
と、聞かれたので
「こっちです。」
と、家の前まで案内すると、いつものように大声でおーおーと、念じて。
「おうちの人にもよろしくね。じゃあね。お嬢ちゃん。」と
急いでほかの仲間の元へと、帰っていきました。
そして。その人たちは、すぐに通りの角を曲がって見えなくなりました。
私は、その一部始終を家の前でポカンと眺めて立っていました。
おーおーの不思議な空間は、遠ざかり。
セミが、たくさん…鳴いています。いつもの夏の日です。
笠の下のおっちゃんは、まだ若く。いっぱい額から汗を流した。
真っ黒に日焼けをした。若いお兄さんで。
白い歯で、キラリと笑いました。
(足の指先まで真っ黒に日焼けしていましたよ!)
『えええええ。』
全然。怖くない。うそつき!
怒って家に入りました。
よそのおばあさんも、小銭を渡し
「ご苦労様」と、お坊さんをおがんでいたのを見ました。
いい時代でした…。
…… file13. end.
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