前回に引き続き…
今度は、私たちが『夜のどんぐり』に、なったお話です。
北野坂は、神戸・三宮駅から山麓にある異人館地区へと、続く
気持ちいい…くらいの、一直線の坂道です。
ブティックやカフェ。おしゃれな雑貨屋が、並んでいます。
高校の同級生。仲良し3人組のうちの1人が、大学生になって
夕方からのアルバイトを始めました。
北野の一番上の異人館『うろこの家』近くのレストランです。
「絶対に。食べに来てね。」と、言われ
やはり大阪で寮生活をしはじめた。〇ちゃんと、訪れました。
彼女の仕事ぶりに感心しつつ。デザートまで、おいしく頂きました。
バイト当初から『店の人は、みんな優しいよ。』と、聞いていましたが
食べ終わった私たちは、普通のお客様として、店を出ようとしましたが
店長さんが、
「今日は、もう。大丈夫だから、友達と帰っていいよ。
久しぶりなんでしょ。」
と、言ってもらって、3人で店を出ることになりました…。
夜の北野町は、坂を登ってきた時とは、違い。
ポツポツと、外灯が、灯っているだけで、案外暗く…。
おしゃれな『お店』も、閉まっています。
まわりは、洋館ばかりでは、ありません。
『ここ。何…?』
外灯が、ひとつ。ボーッと、浮かび上がらせるのが、鳥居です。
『八幡神社』と、ようやく読めますが
その奥は、急な石段が山へと、続いているようです。
とりわけ…その付近は、暗がりで
『ひえ~。急にこんなのが、闇の中から現れると…。こ。こ。こわい…。』
その前だけは、急ぎ足で通り過ぎ…。見なかったフリをします。
楽しくおしゃべりをしながら、何とか足だけは、前に出していましたが
『恋話』に、なったとたん。足が止まってしまいました。
『三宮駅』付近の煌々しい『あかり』を、眼下に
見降ろせる小さな暗がり交差点です。
車も坂道を、1台も登ってきません。が…。
「えーっ。それって、〇〇ちゃんから。告白するってことー!」
と、なると、もはや『立ち話』です。
店を出る前までは、大阪の〇ちゃんに
「時間…大丈夫?」と、声掛けしていましたが。
恋話に、勝るものはありません。
みんな。時間を忘れて、質問ぜめです。笑)
で…。
「今。何時?」
「え。8時40分。」
「しまった! あと15分で、駅まで行けるかな。」
「うそ! 走らないとダメだよ。寮の門限。何時?」
「10時! 私。走る! 二人は、ゆっくりして! じゃあ。またね。きゃ~! ヤバい!」
「待ってー。私達も、走るよー!」
「悪いから。いいって!」
「えーっ! だって。友達だもーん! 走る!」
「そーだ。そーだ。」
と、3人で転がり落ちるように、坂道を走りだしました。
「うわーっ! 怖い! 転がった方が早いよ。コレ!」
「あー。だから。もういいよ。私だけで! ここで、別れようー!」
「いやだー! 駅まで送るー! 送らせてよ! あと8分!」
「うわー。靴が脱げた―。待って…!」ゲラゲラ。
「さっき『食べた物』が、逆流する!」ゲラゲラ。
「…暑い!」
さっきからマフラーを取って、コートの脇に、はさんで1番先頭を走る
〇ちゃんのマフラーが、飛んできて
「〇ちゃん。マフラー。落ちた。落ちたってば! これ。これ!」
「あー。街の灯りが、近づいてきた! 大丈夫かー! がんばれ! あと少し―。」
「栞ー。ついて来ているー?」
「ひぇ~ぃ!」
「なんとか間に合った! ゴール…!!」と、駅にたどり着き。
ゼーハー言いながらも『改札口』に、吸い込まれていく友人を
笑顔で見送りました。
同じ高校を卒業して別の道に歩き出し。急に大人の顔をするようになった友人たち。
でも。…大丈夫。…大丈夫だよ。私達。
後にも先にも、夜の北野坂を駆け降りるなんてこと。
『一生に一度』あるか、ないかです…。
青春だなぁー。しみじみ。
file.94. end.
お読みいただきありがとうございました。
p.s. その友情は、今も続いています。
もう今は『北野坂』走らないけれど…。笑)